QC vol.2|2月7.8日佐野亘レクチャーレポート

2月7日、8日はQueryCruise vol.2第二回目。京都府立大学公共政策学部准教授佐野亘先生による「景観問題はどのような意味において問題なのか?」が開催された。前回の大庭先生の回と重なる顔ぶれもあり、今回初めての参加者もあり、遠方からのご参加もいただき、話題に絶えない回となった。

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前回の大庭哲治先生のレクチャー( 参照 )と比して今回特筆すべきは、その大半がディスカッションによって構成されていた点である。とりわけ一日目は先生によるスライドショーあるいはキーノートもなく、開始の19時からいくつかのトピックについて誰かがなにがしかを発言し、佐野先生もひとりの参加者として介入し、そろそろ終電が気になる22時を過ぎても対話が続いていた。そのすべてが論争的であったわけではなく、故に必ずしもこれを良しとできる訳ではもちろんない。論点があまりにも拡散しすぎたという印象が参加者の中でも多くもたれたことだろう。しかし、凡庸なまとめにはなるが、同一の問題を語りながらも各々の論がどれほど異なるのかという点においては良い事例となったのではないだろうか。他方二日目では、はじめに一日目の論点を少しだけさらい、少しの時間をとってグループワークを行った。これについては後述する。最後はその結果を受け、佐野先生が「景観問題は「みんな」のものである、とするときの「みんな」とは誰か」あるいは、その問いをひとつの核として持つ景観問題の民主主義的視座をめぐる概説をなし、以降への端緒を開くようにして終了した。


さて、一日目の議論をすべてさらうことは不可能に近いため、いくつかの論点をここで抜き出し、そのときに起こったディスカッションをふまえた上での概説を試みてみよう。多分に個人的意見が入り込むのはご勘弁願いたい。


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—いい景観って?そもそもそういうことを言う必要があるの?


「景観」をテーマにしたシンポジウム、パネルディスカッション、そしてこのQueryCruiseもその例外ではないだろう各種の対話においてしばしば問題なのは、「いい景観」なるものへの無批判的かつ無意識的な言及である。注意すべきは、これが「いい景観の「いい」とは何か」を問うことによってのみ超えられるべきものではないということだ。ここからさらに問われるべきは、景観なるものを「いい/悪い」ということの効果は何か、ということである。経済的なもの、政治的なもの、景観の善し悪しを云々することに伴い益を得るグループがそこにはいる。その政治性を無視して「景観破壊だ」とする思考停止の問題は、景観問題を語る上で外せない重要性を持っている。

—景観なるもののみを都市の中から抜き出すことは本当に可能なのか?

これは大庭先生の回から引き続き論点になっているところである。都市という複雑にからまりあった糸玉のようなところから景観という糸だけを引き抜くことはそもそも不可能ではないか。もちろんその通り。そこから抜き出された「純粋景観」はしばしば二次元的な、もっといえば絵はがき的な表層性をもってしまいがちだ。あるいはその比喩が示唆するように、景観なるものは個人的選好とともにしか語り得ないものなのかもしれない。だが、まさに景観価値の貨幣化があくまでも「開発行為」へと向かい合わねばならず、そのための手段として「いい景観」を決める必要性があるのならば、その不可能性を含み込んだ上で「景観」なるものを都市の中から抽出する必要性もあるのではないだろうか。
—いい景観なるものを決定するときの決定母数とその決め方をどうするのか?


景観価値の貨幣化において市民へのアンケート調査が重要な指標になることが明らかになった。そしてその際に問題となるのが、「ゼロ」すなわち「無回答」という回答が、そのシステムへの否定なのか、ある景観を選好しないという表明なのかの判断がつかないということにある。有効回答40パーセントによって高い選好を得た景観は、果たして「いい景観」となるのだろうか。ここでの問題は、この回答の「有効性」をどう考えるのかということであり、それが可能でないのならば、そもそも景観のいい/悪いを語るべきではないのではないかという意見も提出された。



—そもそも上の条件にこだわらず、好きな人が好きなところに移っていけばいいのでは?

個人的意見とはなるが、理想的にはこのシステムが最も効率的なように思われる。景観は個人的主観的なものだとは以前から述べていることだが、その「主観性」が必ずしも他者と共有不可能であるわけではない。ならばいっそのことそれを共有できる複数人で「その景観」の中に居住してしまうこともまたひとつの解決策足りうるだろう。ただそのためには土地所有の問題、あるいは各々がその土地に持っている愛着が「障害」となりがちだ。日本国内でも家の交換例がいくつか見られるようになってきてはいるが、それもマスではない。今後有用なシステムの運用が望まれるところではないだろうか。

—外側と内側との温度差や関わり方の問題はどうか?

ふるさとは遠きにありて思うもの、ではないが、しばしばある景観の価値はそこにいない人によって発見されがちだ。破壊を免れたとされる景観のいくつかはそのような人々によって持続してきたという側面を持つ。ならびに、京都市が行う「町家ファンド」に関わる参加者からの意見で、同ファンドへ多額の寄付をしてくれた方が東京の方だったという例からも示唆される。景観を構成する街区を所有するのも、そこに住まうのも「内」の人ではある。所有財である限りにおいて、その自由は「内」の人にある。だがその恩恵に与る者はかならずしもそうではない。現在の景観価値評価のシステムにおいて、いわんや海外の人々を実際的に含み込めている例はおそらくないのではないか。もちろんこれは「観光」に限った話ではない。



こうした議論を受けた二日目、先述のグループワークを行うにあたり一枚の紙が配られた


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「行政が景観に対してできることは何か」に関する10の項目に優先順位をつけ、5名ずつのグループでそれぞれ上位下位3位ずつを選択してもらった。最初に決めた制限時間はズルズルと引き延ばされ、グループ内での調整は難航した。佐野先生が後に述べるように、これは景観問題の難しさの一端を示している(参考「うつわのブログ」)。実体的にいい景観を定義していくのではなく、その実現のためのルールを複数の主体によって決める、あるいは妥協する。その決定から、あるいは他グループとの決定の違いから、彼らの公約数的な理想が透かし見えてくるのではないか。「いい景観の実現のためには、規制よりもひとりひとりの心がけが大事なのでは?」というディスカッションでも提示された、まさにその通りの意見から遠く離れているようにも見えるが、「ひとりひとり」が「みんな」という広がりを持たざるを得ない状況において、あえて規制をかけることの有用性を考え、ともにディスカッションしていくことは重要だろう。

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だがこのグループワークのポイントはそこのみにあるものではない。佐野先生による最後の概説は、まさにそれを説明するものであった。まずタイトル。前提としてあった「行政が」という主体を所与のものとしてしまうとそれまでだが、この条件付けは彼らがこれらの項目を実行する有効性、あるいはここにはどのような他の主体が入り得るのか、そのときにどのような項目が妥当なのか、に関するディスカッションへと開かれている。実際この点に触れる意見が出て来たのは興味深い。ならびに提示されていた10の項目もそれぞれ平等なのではない。コストの問題がここでは伏せられているし、各項目が「権利の制限」なのか「お金を払えば実行可能」なのか、あるいはまた別の性質を持っているものなのかという点においても異なっている。ある者の権利に対抗できるのは他者の権利のみ、だからこそ法律家は景観に権利を認めようとする、という佐野先生の説明に気づかされた向きも多かったのではないだろうか。こうした規制の質の違いを考慮しながら、その向こうにいる性質の違いをもつ情報が、何気ない一枚の紙に収まっており、気づかなければそのまま過ごしてしまいがちだ。グループワークそのものの面白さはもちろんのこと、自らの議論をもう一度別の視点から読み解き得るような枠組みの提示を興味深く実感することになった。

今回のディスカッションで目指したものとは、先生による表題が示している通り、景観問題の問題構成そのものを問うことであった。「みんなの問題」であるところの「みんな」を問おうと試みたのは、そのためである。いうまでもなく景観問題には多数の主体が関わる。そして各主体がそれぞれに層を持ち、それぞれの層は一定の広がりを持っている。極私的な小さなものから、国家を表象するような大きなものまで、そのすべての層のすべての広がりを問うことはもちろん不可能に近い。その分類さえ不可能かもしれない。とはいえ、その事実を意識的に考えてみることの意義は深いと思っている。今回のディスカッションでそれが十全に行われたとは思わない。政治的視点から少しの示唆があったのみにとどまってしまった感もある。しかし目指すべきところにその層の立体性を据え、着実に向かい合っていく必要性を感じる二日間であった。

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( RAD/S )

大庭哲治レクチャーレポートはこちら

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